


極上の映像と音
史上最高のギタリストとも称されるロックレジェンド、エリック・クラプトン(1945-)は、本拠地とするロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで、1990年1月18日から2月10日まで18回のライヴ・シリーズを行い、4人編成からホーンセクションの入った13人編成、オーケストラとの共演まで、日ごと様々な趣向が繰り広げられる記念碑的なものとなった。さらに翌91年の2月5日からスタートした同会場での公演では、4人編成、ホーン無しの9人編成に、彼の敬愛するアルバート・コリンズやバディ・ガイらをゲストに招いたブルース・ナイト、そしてマイケル・ケイメン指揮のナショナル・フィルハーモニー・オーケストラを配した夜という、3月9日のフィナーレまで24回もの記録的な連続公演を成功させた。全42回の公演の多くはフィルムで記録されていたが、30数年を経た今ベストパフォーマンスを選び抜いて編集、4Kで作り上げたのが本作。脂の乗り切ったクラプトン珠玉のパフォーマンスがここに。イギリス本国では、5月12日公開予定。
出演:エリック・クラプトン、マイケル・ケイメン、フィル・コリンズ、アルバート・コリンズ、バディ・ガイ他
監督:デヴィッド・バーナード
原題:Eric Clapton – Across 24 Nights
2023年/115分/1.83:1/イギリス/字幕(歌詞全訳):小泉真祐
🄫2023 Bushbranch Studios Ltd
ABOUT THE MOVIE作品解説/青山陽一
試行錯誤した80年代からの脱却
それまでのキャリアで築いてきたブルースと自分の折り合い方を、変化していく音楽シーンの流れにも沿わせつつ納得のいく形を模索していたのがエリック・クラプトンの80年代だった。悪癖だったアルコールの問題も抱えつつ試行錯誤を繰り返してきたが、『ジャーニーマン』を作り上げた80年代末になると吹っ切れた様子も窺え、90年代からの道行きにも新たな方向性が見えてきたように思う。80年代後半はクリーム時代から何度も演奏してきたロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで長期公演を打つようになっていたが、『ジャーニーマン』の発売を受けて90年1月18日から2月10日まで行われた18回ものライヴ・シリーズは、4人編成からホーンセクションの入った13人編成、オーケストラとの共演まで、日ごとに様々な趣向が繰り広げられる記念碑的なものとなった。さらに翌91年の2月5日からスタートした同会場での公演では、4人編成、ホーン無しの9人編成に、エリックの敬愛するアルバート・コリンズやバディ・ガイ、ロバート・クレイ、ジミー・ヴォーンらをゲストに招いたブルース・ナイト、そしてマイケル・ケイメン指揮のナショナル・フィルハーモニー・オーケストラを配した夜という、3月9日のフィナーレまで24回もの記録的な連続公演を成功させたのだった。
悲劇と『24ナイツ』
しかし多くの方がご存知のように、このアルバート・ホール公演を終えた直後の91年3月20日、愛息のコナーを、高層マンションの53階にあるコナーと母親のローリ・デル・サントが暮らす自宅の窓からの転落事故で亡くすという悲劇に見舞われる。2年分のコンサート音源からライヴ・アルバムを制作するプロジェクトにとりかかっていたエリックだったが、もはやそれどころではない精神状態だったことは想像に難くない。この年の10月に発売されたCD2枚組『24ナイツ』はそんなエリックの状況もあってか、プロデューサーのラス・タイトルマンが全面的に選曲を任され、様々な編成で行われた各公演からの代表的な15曲をとりあえずバランスよくまとめたものになった。またCDとほぼ同内容の映像版も発売されたが、2年分42夜にわたるコンサートの素材は膨大にあったはずで、それを考えると製品版はあくまでダイジェスト的なニュアンスが色濃かったのは当然だった。だが現地に足を運べなかった世界中のディープなファンが、演奏したはずのあの曲やこの曲もオフィシャルで聴きたい、と熱望していたことも事実だろう。
『24ナイツ』で未公開の13曲
今回新たに登場したこの映画『アクロス24ナイツ』には、こうした長年のファンの願いを補完する新たなトラックが多数公開されているのがまず大きなポイント。全17曲中「いとしのレイラ」をモチーフにしたオーケストラによるプロローグを含めると、なんと13曲がこれまで公開されていなかったものとなっている。その代わり『24ナイツ』収録曲で落とされたものも11曲あるわけだが、ダブりが少ないことはファンにはむしろ好都合だろう。
漲る自信と野心
当時40代半ばで、まだまだギラギラした上昇志向も感じさせる当時のエリックの佇まいも見どころだ。クリームやブラインド・フェイス、デレク&ザ・ドミノズとキャリアを積むにつれどんどんひとり歩きしていく自分の名声に対する戸惑いのようなものも消え、頂上を極めてやろうという野心が漲っているようにも思える。
「いとしのレイラ」他の見どころと
段違いのクオリティ
まずインパクト充分なのがオーケストラ・パートだ。プロローグからなだれこむ「クロスロード」からして、ロバート・ジョンソンのパフォーマンスが録音されてから40数年の時を経て、これがオーケストラと共に演奏されることになるとは、作者本人も思わなかったのではないだろうか。エリックがリチャード・マニュエルに捧げた「ホリー・マザー」のハートフルな名演も印象的。言わずと知れた「いとしのレイラ」本編も後半のコーダ・パートではオーケストラが大フィーチャーされたスペシャル・ヴァージョンだ。他のセットではホーン・セクションと共に演奏される「コケイン(コカイン)」はかなりレアだし、フィル・コリンスがドラムを叩くパートではバンドメンバー全員でコーラス・マイクを囲むボブ・ディラン作「天国への扉」ような、今ではまず見られないような場面もある。65年の名盤『ジョン・メイオール&ザ・ブルースブレイカーズ・ウィズ・エリック・クラプトン』の冒頭を飾ったオーティス・ラッシュ作「オール・ユア・ラヴ」がエリックのヴォーカルで聴けるのも嬉しいシーン。またアルバート・コリンズとバディ・ガイをそれぞれフィーチャーする「ブラック・キャット・ボーン」と「マイ・タイム・アフター・ア・ホワイル」で、エリックが敬愛するブルースマン達のパフォーマンスがしっかり記録されているのも意義深いことだ。
そして特筆すべきは以前の映像版とは段違いの映像クオリティ。より臨場感溢れる仕上がりになっているのは言うまでもない。

エリック・クラプトン『ザ・ディフィニティヴ・24ナイツ』
2023年6月23日発売!
●『ザ・ディフィニティヴ・24ナイツ(スーパー・デラックス・ボックス)(6SHM-CD+3Blu-ray)(完全生産限定)』(WPZR-30961/69)35,200円(税抜32,000円)
それぞれの演奏形態を収録した3作品も同時発売!
●『24ナイツ:ロック(2SHM-CD+1DVD)』(WPZR-30952/54)6,380円(税抜¥5,800円)
●『24ナイツ:ブルース(2SHM-CD+1DVD)』(WPZR-30955/57)6,380円(税抜¥5,800円)
●『24ナイツ:オーケストラ(2SHM-CD+1DVD)』(WPZR-30958/60)6,380円(税抜¥5,800円)
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FEATURING出演者

Eric Clapton
エリック・クラプトン(1945-)
史上最も重要で影響力のあるギタリストの一人とされる。ローリング・ストーン誌の「史上最高のギタリスト100人」で、ジミ・ヘンドリックスに次いで2位。1945年イギリス、サーレー州リプリー生まれ。幼い頃から独学でギターを身につけ、63年にヤードバーズに加入。66年にジャック・ブルース(b)、ジンジャー・ベイカー(dr)とクリームを結成。69年にはスティーヴ・ウィンウッドらとブラインド・フェイスを結成。70年に初のソロ・アルバム制作をはさみ、続いてデレク&ザ・ドミノスを結成し、歴史的名盤『レイラ』を世に送り出した。74年、アルバム『461 オーシャン・ブールヴァード』を発表。当時はまだほとんど知られていなかったボブ・マーリィの「アイ・ショット・ザ・シェリフ」をカバーして全米1位に送り込んだ。77年、「ワンダフル・トゥナイト」収録の『スローハンド』を発表。89年のアルバム『ジャーニーマン』収録の「バッド・ラヴ」によって、個人として初のグラミー賞を獲得。92年、息子を失った悲しみから立ち直る過程で書かれた「ティアーズ・イン・ヘヴン」を映画『ラッシュ』のサウンドトラックとして発表。この曲を含めて新旧の代表的作品を演奏した『MTVアンプラグド』がアルバム化され、驚異的なヒットを記録(日本では120万枚)、6つのグラミーを獲得。97年、映画『フェノミナン』のために吹き込んだ「チェンジ・ザ・ワールド」が世界的ヒット。第39回グラミー賞で年間最優秀レコードに選ばれる。99年の『ベスト』は日本だけで200万枚という大ヒット。2000年、3回目となるロックの殿堂入り(過去ヤードバーズ、クリームとして)。2023年外国人アーティストとして初めて100回目の武道館公演を果たす。

Michael Kamen
マイケル・ケイメン(1948-2003)
指揮
1948年NY生まれ。80年代から映画音楽に取り組み、膨大な作品を残しオスカー常連に。一躍有名になるきっかけとなったのが、テリー・ギリアム監督『未来世紀ブラジル』のスコア。『リーサル・ウェポン』全4リーズ、『ロビン・フッド』なども有名。幼い頃からピアノを習うがジュリアード音楽院ではオーボエを専攻。67年には音楽仲間らと「ニューヨーク・ロックンロール・アンサンブル」という名のグループを結成。レナード・バーンスタインに感銘を受けロックンロールとクラシック音楽の融合を試みる。73年デヴィッド・ボウイのダイアモンド・ドッグ・ツアーの音楽監修責任者に任命される。この参加によってブリティッシュ・ロックのアーティストらとも交流を深めた。96年に多発性硬化症を発病し2003年11月55歳で他界。

Phil Collins
フィル・コリンズ(1951-)
ドラムス・コーラス
1951年ロンドン生まれ。芸能活動の出発点は映画や舞台の子役。音楽活動は69年からアート・ロック・バンドのフレイミング・ユースで。70年ジェネシスに参加。81年ファースト・アルバム『夜の囁き』でソロ・デビュー。鼻にかかったハスキーな歌声とコマーシャルなロック・サウンドで着々と成果をあげる。82年の「恋はあせらず」から順調にヒットを連発。代表曲「ワン・モア・ナイト」「見つめて欲しい」「セパレート・ライヴス」など多数。ソロでもグループ(ジェネシス)でもシングルとアルバム合わせて1億5000万枚以上を売り上げている。

Albert Collins
アルバート・コリンズ(1932-93)
ギター・ヴォーカル
1932年テキサス州生まれ。ブルース史上最も偉大なギタリストの一人。若い頃からギターを弾き始め、ジャズ、ロック、ファンクの要素を取り入れながら、ブルースへの独自のアプローチを確立。フェンダー・テレキャスターを使った独特の氷のように冷たい音色は、「アイスマン」サウンドとして知られ、パワフルでソウルフルなヴォーカリストでもある。1986年ブルースの殿堂入り、2019年ロックの殿堂入り。

Buddy Guy
バディ・ガイ(1936-)
ギター・ヴォーカル
1936年ルイジアナ州生まれ。57年シカゴに進出し翌年デビュー。60年に名門チェスと契約。60年代後半からはジュニア・ウェルズとデュオでの活動も。シカゴ・ブルースの第一人者的存在となった。テンションの高いギター・プレイはロック・ファンにも幅広く受け入れられており、最も成功したブルース・ミュージシャンの一人。80年代は表舞台から遠のくも、91年クラプトンも参加した『アイ・ガット・ザ・ブルース』でグラミー受賞ほか5度のグラミー受賞。2005年ロックの殿堂入り。
STAFFSスタッフ
監督:デヴィッド・バーナード
プロデューサー:ピーター・ウォースリー
編集:マシュー・ロングフェロー
音響プロデューサー&ミキサー:サイモン・クリミー
スーパーバイジング・プロデユーサー:マーティン・デイクル
エグゼクティブ・プロデューサー:マイケル・イートン
監督:デヴィッド・バーナード
音楽のライヴ映像を得意とし、このジャンルにおけるイギリスの第一人者。
『エリック・クラプトン/ロックダウン・セッションズ』、レディオヘッド『イン・レインボウ』、ビヨーク『atロイヤル・オペラ・ハウス』、ペット・ショップ・ボーイズ『インナー・サンクタム』、アリス・クーパー『ブルタリー・ライブ』、ゴリラズ『ライブ・イン・マンチェスター』(グラミー賞ノミネート)、他に、ニック・ケイヴ、ダイアナ・クラール、ユーリズミックス、ニュー・オーダー、ワン・ダイレクション、ポール・ウェラー、ルチアーノ・パヴァロッティ、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ、スパイス・ガールズ、トラヴィス、ハリー・コック・ジュニア、パルプ、ダイドなど数多くの名作ライヴ映像を作ってきた。2022年には宇多田ヒカルのHikaru Utada Live Sessions from Air Studiosを手がけている。
SETLIST楽曲リスト
- 前奏
- Crossroads クロスロード
- I Shot The Sheriff アイ・ショット・ザ・シェリフ
- White Room ホワイト・ルーム
- Knocking on Heaven’s Door 天国への扉
- Lay Down Sally レイ・ダウン・サリー
- All Your Love オール・ユア・ラヴ
- Black Cat Bone ブラック・キャット・ボーン
- My Time After A While マイ・タイム・アフター・ア・ホワイル
- Edge of Darkness エッジ・オブ・ダークネス
- Holy Mother ホリー・マザー
- Tearing Us Apart ティアリング・アス・アパート
- Cocaine コカイン
- Wonderful Tonight ワンダフル・トゥナイト
- A Remark You made ア・リマーク・ユー・メイド
- Layla いとしのレイラ
- Sunshine of Your Love サンシャイン・オブ・ユア・ラヴ